彼女

ある人に

「一番仲が良いミュージシャンは誰?」

と聞かれ

わたしは迷うことなく彼女の名を告げた


彼女にとっては私ではないとは思うが

私にとっては彼女以外考えられなかった


横浜スタジアムへ一緒に観戦にも行ったし

食事会もしたし


何より共演数が他の人より段違いに多かった

しかも、あらゆる場所で

互いのイベントもあったが

そのほとんどが店側や他の人が組んだブッキングだった



彼女はとあるライブハウスでこう言われたと教えてくれた

「わたしが赤い炎でゆきちゃんが青い炎」

だから、彼女とのツーマンの際は青いワンピースを衣装にした


他の人のライブを観に行った時に観客席にいると、彼女はいつもわたしの隣に来てくれた


なにかトラブルに見舞われてSNSにあげると、真っ先に連絡をくれたのも彼女だった



そして、彼女はソロ「おぐまゆき」を何度もよみがえらせようとしてくれた


とにかく何度も出演依頼をくれてその都度

「おぐまゆきソロでお願いします」と書いてあった


かといって、中前適時打を認めてくれていないわけではなく、中前適時打にもちゃんとオファーをくれたし、観にも来てくれたし、あの曲が聴いてみたいとも言ってくれた


ただ、純粋にソロ「おぐまゆき」の復活を願ってくれたのだと思う


しかし、わたしは最初の一回だけは受けたものの、その後はことごとく断った

どうしても、納得出来ない自分の状態で一緒のステージに立つのが嫌だった

いや、怖かった

うちのめされるのが

負けるのが怖かった


しかも、何度目かのお誘いはツーマンで

それもわたしは悩んだ末に断った


しかし、それは彼女の活動休止前の貴重なライブで

「ゆきちゃん以外相手は考えられないから」と

結局、ワンマンライブで開催していた


わたしは大変悔やみ、その胸の内を伝えたが

「その時は自ずと来るから」という答えをもらった


最後に直接会ったのは

ある人のライブの客席で

活動休止中どうするのかと聞いたら

語学をちゃんと学びたいと言っていた


会うたびにいつも

ああしてみようか

こうしてみようかと考えてはやりたいことに希望を満ちていた



そうしている間に

わたしはライブどころか普通に生活出来ない身体になった


しばらくの間は滅多にネットを開かなくなったが

たまにSNSを覗けば彼女の目まぐるしい活躍ぶりに嫉妬した



そして、今年頭

ある人から連絡をもらい

彼女が大病を患っていることを知った


「何故」という感想しか抱けなかった


彼女は煙草もやらないし

酒も嗜む程度しか飲まないし

職場までの長距離を自転車漕いで行くほど体力もあったし

何よりやる気にいつも満ちていた


あれほど生きたがっている人は私の周りに珍しかった


本当に神様がいるとして

神様が人を救ってくれるぐらいの偉大な存在だとしたら

例え地球人が滅びる危機に見舞われても彼女は最後の方まで生き延びるはずの人だ

少なくとも私より


自分の経験で病気というのは運でしかないとは分かっていながらも

それは余りにも納得がいかなかった


しかし、彼女は 全然希望を捨てていなかった

とにかく足掻いていた

最後の最後まで歌うんだと言っていた

 

わたしは自分勝手に思いを書きなぐった手紙を送ったのだが

それに対して、動画で面と向かってメッセージをくれた


それに対し、顔面コンプレックスがあるわたしは

真正面から自分を撮影する勇気を持てず

代わりに彼女のイラストを描いて

言いたいことは全部直接話すと返事をした


彼女は必ず会いに行くと言ってくれた




その日は親友の命日であり

18回目となる墓参りだった


自ら命を断った親友に

「生きたくて足掻いてる人もいるんだぞ」

と、初めて怒りをぶつけたら

親友のおどけた声で

「そんなのわたしには関係ないしー」

と聞こえた


たしかに親友には関係ないが 

生きていたら、彼女のステージを目にしたはずだった

自惚れではなく、親友は絶対にわたしのライブを観に来たはずだったのだから

そういう奴だったのだから


その前日、彼女に危機が訪れていることは知っていたが、家路に着くまでスマートフォンをつけることはなかった

知りたかったが知りたくない気持ちもあった


帰りの車窓から

親友の両親がやっていたお店のビル自体がなくなっていたのが見えた


夕方、家路について

電磁波防止グッズをセットしスマートフォンをつけて

わたしは声をあげて泣いた


やはり何故としか思えなかった

そして悔しかった


彼女の歌をしきりに思い出す

「殺人病死事故も自殺も寿命さ

いつか終わりのそれだけの人生

誰の手でも死ねない

私の人生」


彼女は沢山の人に見送られていた

わたしは会いに行けなかった


「仕事休みたいです」という勇気もなかったし

公共交通機関に長距離乗る勇気もなかった

結局、彼女に対し最後まで臆病者のままだった


本当にただただ不条理だ

しかし、この不条理な世の中を

わたしはまだ生きていかなくてはいけない


いつか、今度は必ず

彼女の故郷まで会いに行きたいと思う


そして弟さんが働いている

子ども古本屋に行くのだ


それが今のわたしの野望


待ってろ













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コメント: 2
  • #1

    黒田嗣雄 (月曜日, 23 10月 2023 07:40)

    彼女とおぐちゃんのツーマンを主催させて頂いたこと、心より感謝致します。
    そしておぐちゃんの復活と彼女の追善供養をを心より祈念致します。

  • #2

    稼働中マキ (月曜日, 13 11月 2023 23:12)

    おぐまさんの文章、とても心に響きました。。
    ライブもそうだけど色々な思い出がありますね。。
    返信は不要ですよん!
    うんばば、泣いたり思い出し笑いしながら‥また彼女と会える日まで生きましょーね!!!らぶ!!