第二回 今年出会った心に残った書籍 奥田英朗「邪魔」

さて
前回に引き続き
今年出会った心に残った書籍の紹介
第二回
今回、紹介するのは
以前からファンとして拝読している
奥田英朗の初期ミステリー「邪魔」
ファンでありながらこの代表作の一つでもある作品を今年今更読むってホントにファンなの?って疑われそうなのだが色々事情があり今年になった
おかげで今年一番最初に私を救った作品となった

まず、奥田英朗を知ったきっかけは以前働いていたバイト先の先輩のススメでその時すすめられたのは
彼の代名詞的作品、とんでも精神科のブラックコメディ「イン・ザ・プール」
しかし、わたしを夢中にさせたのは
ヒューマンミステリーの「最悪」だった

彼はとにかくジャンル全く問わずなんでも描く人でしかも、プロットを全く作らないでその場の流れで書いていくらしく、読んでいても先が全くわからない

ただ、全ての作品の共通点として
「こういうやついるよなあな」(苦笑)という輩が次々出てくる
しかも描写が細かい
服装まで細かい
それがまたいかにもすぎる

すなわち彼の作品が好きな一番の理由は共感である

スポーツエッセイにしろ
レスリングの人の服はつなぎなのになんで乳首を出すのか確かに不思議であるし
プロ野球をダメにしたのは
テレビの巨人戦のOBの説教じみた解説とアナウンサーの不必要な絶叫というのもよくわかる

は、ともかく
なのでミステリーもほとんどの主役は加害者側で最初は普通の人
それがひとつのボタンのかけ違いによりどんどん道を外れていく
自分にもふりかかりそうなことばかりだ

今回の邪魔の主人公は2人

スーパーのパートをしながら二人の子どもを育てている普通の主婦

そして、もう一人は
7年前に妻を事故で亡くしてから事故で生き残った義母を支えとしている刑事


その普通の主婦、恭子は
旦那が宿直時にボヤ火事が起きた事により
刑事が聴き込みに来たことから不安になり
その不安から逃れるためにどんどんと判断を間違えては暴走していく

そして、担当になった九野は その主婦が亡くなった妻と同い年かつ眉が太いという共通点から、また妻への思いとトラウマにがんじがらめとなり狂っていく
そして向かう先は義母の元
義母のことも、恭子のことも、その旦那のことも
とにかく自分より先に死ぬのが怖いというのが読んでいてよくわかる

不良少年を骨折させてしまうぐらい無骨な男なのに

そして、その結果、自分は死に晒すこととなる
しかし、自分が死にそうなのに
殺そうとした相手に対してひたすら
「死ぬな死ぬなよ!」と叫び続ける
死ぬことはない。自分で死ななければならないことなど、人生にはないのだ。

と…
そして、向かう先は義母の元
しかしその二人の関係もとても切ない形で終わる

この九野の「死ぬな!死ぬなよ!」の叫びが
わたしはこの本を読んだ4月中、そしてたまに今でも
まるで自分に叫んでいるように聞こえてきた
それは まるで祈りのように
それがわたしの支えとなった

愛する人を先に失うことは
こんなにトラウマをせおわせるのだと…

因みに奥田作品は
先程書いた通り、出てくる人たちが思い当たるような人物ばかりのため
身の回りのひとを想像して読むことが多い

例えば
わたしが 一番好きな作品の「最悪」の主役は
群馬県赤城山のアンダーソンさん
「オリンピックの身代金」の総理大臣のドラ息子は相方、辻タダオの若い頃

しかし、実際のドラマでは沢田研二に速水もこみち
全然似合わないうえに内容も最悪だった

ただ、「邪魔」の九野薫に関してはまだ誰もあげられない

ドラマでは中村獅童だったらしいが全然である

ということでもし、読んだ方
この人!という人がいたら提案してみてほしい


他のオススメ本
サスペンス
「最悪」「無理」「オリンピックの身代金」「ナオミとカナコ」「悪の轍」

日常
「家日和」「我が家のヒミツ」「ガール」「向田理髪店」

青春もの
「純平、考え直せ!」

ブラックコメディ
「ウランバーナの森」「イン・ザ・プール」「空中ブランコ」

SF
「コロナと潜水服」

エッセイ
「野球の国」「延長線に入りました」「泳いで帰れ」「どちらとも言えません」「用もないのに」