第一回今年出会った心に残った書籍 重松清「エビスくん」〜短篇集『ナイフ』より

さて、読書の秋もそろそろ終わりに近づいておりますが

わたしは季節問わずいつでも読書

というか、それしか出来ない

という具合で山ほどの本をお金かけず図書館で借りて読んで参りました


んで、一生もんの作品と思ったらブックオフで買うと


ということで

以前言っていた通り、年末には

心に残った本をまとめて紹介しようと思っていたのですが

一回ではどう考えても長くなりすぎるし

一冊ずつ紹介するには、12月からじゃ間に合わない

ということで


今からボチボチ始めることにしました


とりあえずきまりとしては


今年初めて読む本

一人の作家につき1作品


という決まりをつくりました



ということで

記念すべき第一回目は

以前、「十字架」でも紹介した

重松清の作品

短篇集「ナイフ」に掲載されている「エビスくん」


まず、わたしにとっての重松清との出会いは

ドラマにもなった「流星ワゴン」という作品で

仕事も家庭も崩壊状態のサラリーマンが

事故死した親子のワゴンに乗って分岐点にタイムスリップするという割とありきたりな内容なのだが

最初のタイムスリップで

この話は今まで読んできた本の中で1番残酷だと思いました


彼の作品を読むたびに思い出すのは

とあるマスターに

「おぐまさんの 歌を聴いてると、直接的すぎてに身につまされる思いがするという言葉


それが私にとっての重松清で

生きる痛みや苦しみを包み隠さず押し出して、最後に希望をみせてそれでも生きていかなければいけないという結論にもっていく


わたしが音楽で表現したかったことを

ずっと描いてきたのが重松清でした


そして、この「ナイフ」という短篇集は

あらゆるイジメをあらゆる立場から描いた作品集でこれまた痛い場面の連続である


いきなり「ハブちゃん」というあだ名をつけられクラス中の女子からシカトされながらも強気に振る舞う女の子


息子がいじめられているのを知っていながら立ち向かう勇気が出せず、見守ることしかできない父親


逆に息子に立ち向かわせようとして最悪な結果を招く父親をわかっていながらみている異性の幼馴染


等々


読んでいると

こんなにも平和を謳いつづけるこの国で

どんな時代でもどんな歳になってもイジメがなくならない理由がよくわかるし

罪に問われず年齢制限もないシカトイジメが最強のイジメという言葉が腑に落ちる


そしてそんな話の中

転校生の「エビスくん」も

「今日から俺たち親友な」と主人公ヒロシを毎日のように執念深く乱暴を振るうのです


しかし、エビスくんが他の話のいじめっこと違うのは

つるまないし、他の子にも乱暴を強要しようとはしない

あくまで乱暴することが許されるのは自分だけでターゲットはヒロシだけだ


また、ヒロシはある理由から神様の目を常に意識しており、エビスくんを嫌いになることができない


わたしも彼のような良心的な気持ちではないが、

その頃から神様の目を常に意識していたのでヒロシくんの気持ちはよくわかる

と思いながら読み進めると、

彼らは本当に親友だったことがわかるのです


そして、最後の同窓会のシーンで

ヒロシくんはその場にはいないエビスくんに

思いを心から呼びかけるのでした



この本文だけを読んだだけの時点では

この作品は確かに良い話だけではあったけど

特別な作品ではありませんでした

他の作品の方が寧ろ、心に残る言葉が沢山あったし

いじめの話のなら「ビタミンF」の「せっちゃん」の方が印象強かった



しかし、重松清の文庫本には

最後に必ず著者のあとがきが載っており

それにいつも話を書いた経緯が載っていて


今回は「エビスくん」について



作者はわたしと同じように

相棒でもある親友を自殺で亡くしていました

しかもその数ヶ月前に後押しするようなことを

言ってしまっていたことを遺書で知り

それから人付合いを極端にきらうようになり

ひとりぼっちの主人公の作品しかかけなくなったという


確かにそれ以前の彼の作品の主人公は

家庭の中でも、教室の仲間の中にいても

孤独でひとりぼっちでした



しかし、今度こそ

相棒のいる主人公の話を描きたい

出会いから始まる作品が描きたい


そうして苦しんで描き上げたのが「エビスくん」だという


そして、最後に主人公がエビスくんに向かって投げかける言葉は

作者が亡くなった親友に向けた言葉だった


「会いたいなあ、ほんまごっつ会いたいわ。

どこにおんねや、きみはいま」


これを読んだ後、わたしは号泣しながら

改めてこの作品を読み直しました


後付けでしかないが

わたしには乱暴しないにしろ

わたしの親友もしょっちゅう、恨みをかうようなことを人にいったり、合唱や体育祭の練習をサボったりして

他の友達と

「なんで、あいついいやつなのにわざと悪ぶるんだろうね」と言って笑っていたのを思い出したり

そして、最後の言葉は

私自身、ずっと親友に投げかけ続けた言葉でした


それから何日もその言葉が頭から離れず

彼女のように死んだら彼女に会えるかなあなんて

ぽつりと友人に言ってみたりしたが

「もう彼女生まれ変わってすれ違いになっちゃうかもよ」と言われてなんとなく目が覚めた



この後、彼は全く似てはいないが

新しい相棒ができたことを語っています


それは作品にも反映されていて 

最近読んだ「とんび」なんかは

本当に彼特有の痛みも棘もない

純粋に温かな話でこんな普通の話じゃ泣けないな

なんて思ってたら最後の最後に結局泣いていていました



亡くなる寸前の恩師が彼に「このペースで仕事してたら早死にしてしまう」と言われた通り

彼の作品数は異常に多く

また、それ以外にも東北大震災の被災地をまわったレポエッセイや他の人の本の紹介などもやっていて

とにかくまだまだ読み切れていない


来年もまだまだ彼には泣かされて苦しめられて励まされそうです



他のオススメ作品

「とんび」「ビタミンF」「十字架」「その日のまえに」「幼な子我らに生まれ」「流星ワゴン」「きみの友だち」「青い鳥」「きよしこ」